別れ・新しい環境・変化が辛いときに。宮本輝「蜥蜴」からの学びの言葉

桜も満開の暖かな春。
卒業、就職など変化の春でもありますね。
環境の変化に不安を感じたとき、いつも私が思い出すエピソード
―「宮本輝」のエッセイの中にある言葉―をご紹介します。

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我が家もこの春小さな変化があり、次女と三女の保育園が変わりました(転園)
最初は環境の変化に大泣きするだろうと予測はしていたものの、2歳次女は大暴れ。
前の保育園の先生やお友達の名前を呼んでは、「〇〇先生のところに行きたい」と泣く娘。

頭では「そのうち慣れる」と(経験も通して)わかっているものの、
目の前で泣かれると辛いのも正直なところ。

2歳児でもこうなんですから、小学生、思春期、新社会人、大人たち・・・
新しい環境に慣れるまでの不安は多かれ少なかれ、誰にもありますよね。

別れの悲しみ、新しい変化へのとまどい、不安。
そんな気持ちにさいなまれたときに、いつも思い出すエピソードがあります。
宮本輝「蜥蜴(とかげ)」

二十歳の火影というエッセイに収録されている一編です。

大まかな話はこう。

輝氏が母と暮らしたアパートから引っ越すとき、木の棚を取り外そうとして息を呑んだ。
棚と壁との間に1匹のトカゲがはさまれ、太い釘で貫かれていたのに気が付いたから。
さらに驚くべきことに、トカゲは生きていた
3年前に棚を取り付けたとき、どうやらトカゲに気づかず釘を打ったらしい。

たまに(別の)トカゲがうろつくのを見かけていた。おそらくそのトカゲが妻であり、
打ち付けられたトカゲ(夫)にエサを運んでいたのだろう。
だから3年も壁に打ち付けられたままで生きていられたのだろう。

さて、ここでどうするか。
釘は打たれて3年経つ。すでにトカゲの一部になっているはず。
釘を抜いたら死んでしまうか、死ぬほどの痛みを伴うであろう。

どうするのが最善か。
悩んだ挙句に、思い切って釘を抜いた輝氏。
すると、トカゲは体を弓なりにそらせ、畳に転がった。
そのトカゲを新聞紙に乗せ表に出したところ、右往左往しながらも
草むらの中に去っていった。

きっとエサを運んでくれたあの妻トカゲのところに向かうのだろう。
そう輝氏は考えたという。

釘を打たれ、 死ぬほどの苦しみを味わったであろうトカゲ。
このエピソードからの輝氏の考察はこう。

それは、もしかしたらこの私の体にも、死ぬほどの苦しみを味わってでも断じて引き抜いてしまわなければならない太い錆びた釘がささっているのかもしれぬという思いなのである。

釘を引き抜かれた瞬間のトカゲの激痛を思うと、自分は波風を立てずこのままそっと生きていようかと考えたりする。
だが人生には、きっと一度はそうした荒療治を加えなければならぬ節が、誰人にも待ち構えているような気もするのである。

宮本輝 「二十歳の火影」講談社文庫 より引用

太い錆びた釘
抜いたほうがいいと分かっていても、抜くことの痛みよりは現状維持を選びたい。

現状に不満があったり、変わりたいという願望があったりしても、変化も怖い。
何となく生きていられるのならば、今ある安住を手放したくない。
そんな怠惰な習慣=太い錆びた釘なのではないか、と私は考えます。

そして同時に、そんな(本当は見たくないような)怠惰な自分を改めて認識させてくれるのが、「別れ」というタイミングだとも思うのです。

(ちなみに、私の考える怠惰とは努力しない、怠ける、ということではありません。
自分が「何を考え、どう生きたいか」自分の内側に向き合うことを放棄する、という意味です)

トカゲについて、こうも記されています。

背と腹からこぼれ出た臓腑をひきずり、苦し気に、だが再びめぐり来た自由の天地へとひたすらじぐざぐに這って進む蜥蜴の、蒼光りした精緻な色模様を、私はいまでもはっきりと眼前に映し出すことができる

釘を抜かれたことで、死ぬほどの痛みと引き換えにトカゲは手に入れた。
それは、自由という天地。新しく広がる世界。

別れの痛みを通して、人は新しい自由を手に入れるのでしょう。
人生にはそんな「荒療治」が必要な節が誰にとっても必ずある。
けれど、痛みの先には必ず新たな光がある

別れの悲しみ、変化の不安にくじけそうになったとき、私が必ず思い出すエピソードです。
大きな変化(就職・転職・肉親との死別など)はもちろん、
小さな別れに胸が痛むときも、いつもこのトカゲの雄姿が心に浮かんできます。

そしてそんな悲しみも不安もすっかり忘れ去るころ、ふと
新たな環境に馴染んで新たな幸福感を見つけている自分が嬉しくなっているものです。

そうやって自分を奮い立たせている人は、たくさんいるのでしょうね。

新たなスタートに立つすべての人にエールをこめて☆彡

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